言葉を見直してみませんか
私たちが普段使っている言葉、若い人たちが使う流行語から丁寧語、さまざまな地方の方言まで。どれひとつとっても死んではいない、生きている言葉です。
生きている言葉なのですが、改めてその歴史を見てみると相当古いもので、漢字に至っては約3300年以上の歴史があります。私は古代文字・漢字研究の第一人者でもある、故・白川静さんの本が好きなのですが、今回はその白川先生の教えを受けた、山本史也さんの著作『続・神さまがくれた漢字たち 古代の音』(理論社)からテキストを抜粋しつつ、その魅惑の世界をちらりとお見せしたいと思います。
言葉のはじまり
日本最古の歴史書といえば「古事記」ですね。「古事記」にはいわゆる“国生み”の物語、国(日本)が生まれる様が描かれていますが、伝説や物語として、日本の原初世界を形作るには言葉の力が必要でした。古事記について、こんな一文があります。
“ことばによって、世界は創造し、世界は形成されてゆきます。ことばの「こと」は、「言(こと)」であるとともに、「事(こと)」でもあり、さらに「異(こと)」でも、「殊(こと)」でもあるでしょう。原初の状態を、ことばが切り裂き、そこに、おびただしい事物が生みだされます。”
(『続・神さまがくれた漢字たち 古代の音』抜粋・引用)
言葉はあらゆる世界の輪郭を作り、核を作り、引き裂き、また一つにする。(神)が発せられる言葉で世界が形を変えていく、ということ。モノゴトのはじまりはつまり、言葉のはじまりなのです。
時空を超える漢字
さらに歴史の古い漢字にスポットをあててみましょう。漢字と同様、古代から存在する表記文字に、エジプトのヒエログリフやシュメール文字などがありますが、それらは残念ながら誰にも使われなくなり “生きている文字”としては滅びてしまいました。
その点、漢字は約3300年以上にもわたって生き続け、漢字を生んだ中国だけではなく、現代の日本に住む私たちも使い続けています。漢字ほど時空を超えて、生き続けている文字は世界中どこを探してもありません
「笑い」は「咲(わら)ひ」
漢字の原初形態の一つである甲骨文字(亀の甲羅や動物の骨に刻まれた文字)は、もともと祭礼(政・占い)に使われました。漢字の起源は神との対話の試み、またはその記録として残されたもの、そこから派生したものがほとんどです。その中で、私が好きなのは「笑い」の起源の物語です。また本の抜粋ですが少しだけご紹介します。
“「笑い」は「咲(わら)ひ」
喜びも、楽しみも、すべて神のものであり、人々はといえば、ただ神を喜ばせ、楽しませることによってのみ、はじめて自らの喜び、楽しみを得ることが可能であった。
(中略)
「たのし」は「手伸(たの)し」に出る語と思われます。神に向かい、手を伸ばして舞う所作が、神をいたく楽しませるのでしょう。人々が、その神の和らぐ姿に共感するとき、笑いは、生じます。
(中略)
「わらふ」は、硬直がほどけてゆくときの顔容を示す語と考えられます。じっさい、古く、「わらふ」には、「咲」の字を当てるのがならいでした。
(中略)
大きく開口して、えらぎ、どよめく、その哄笑(こうしょう)の響きを、聴覚的に示す語とするのが、ふさわしいことでしょう。神と人との境界に、からからと轟くように響きわたる、その大らかな「咲(わら)ひ」が、笑いの起源であったと考えるべきです。”
(『続・神さまがくれた漢字たち 古代の音』抜粋・引用)
この「咲ひ」についての記述を読むと、笑うことは祈ること、に近いのかもしれないなぁと。決して無理をして笑え、ということではないのですが、笑うことで救われることってありますよね。
こんな風に、言葉の成り立ちを知れば知るほど、その奥深さや歴史に驚かされ、感銘を受けます。普段何気なく使っている文字には気の遠くなるような長い歴史があること、“言葉は世界を作る”ことを頭の片隅に置きつつ、自分が話す言葉を改めて見直してみてもいいかもしれません。
この記事の著者
Sachiko(さちこ)
フリーランスのWEBディレクター/ライター
美容、コスメ、ファッション、健康食品など女性向けサイトの制作や運営に多数たずさわる。興味を持ったことは何でもトライして、浅く広く楽しむタイプ。好きなものはお酒、食べること全般、旅、音楽、アート、読書、映画、ゲーム、ジム通い。