旅をしたくなる本
今年の夏はどんなふうに過ごそうか、そろそろ夏休みのプランを考え始めるシーズンですね。私は例年7~8月は仕事が立て込むことが多いので、なかなかゆっくりと夏休みがとれず、まとまった休みをとるのはたいてい9月以降ですがみなさんはどうでしょうか。もう計画はたてましたか?
夏休みになるとどこか遠くへ・・・海外に出かけたいな~と、気分だけはすごく盛り上がるのですが、なかなか気軽に、ともいかないのが現実だったり。そんなとき、私は本を読んで頭の中だけでも旅気分を味わいます。本を読むとますます行きたくなったりもするので、諸刃の剣ではあるのですが笑。
それでも、言葉の力で「ここではないどこか」へ連れて行ってくれる本の旅はとても楽しいし、癒されます。今回はそんな私のお気に入りの「旅本」の中から1冊ご紹介したいと思います。
アラスカの大自然に癒される
「旅をする木」(星野道夫著/文春文庫)
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、作者は故・星野道夫さんです。写真家、探検家、作家(随筆家)として、アラスカの雄大な自然や動物、文化、そこに暮らす人たちを撮影した写真集、随筆を多数出版されています。
この本はその中の一冊。1993~1995年に書かれた日記のような記録のような、手紙のような文体で、アラスカで出会った自然や人、動物への独特の目線と自らの人生、過去を照らし合わせて繋がる未来へと思いを馳せた言葉が静かに紡がれています。読み始めると、まるで自分も同じ景色を見ているかのような錯覚を覚えてしまうほど。一瞬にして頭の中がアラスカへ行ってしまいます。
すこし抜粋してみますね。
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ルース氷河
夜の氷河の凍りついた静けさ。
どこかで氷壁が崩壊したのか、雪崩の音が聞こえている。波のようなとどろきはやがておさまり、いくつもの石が岩壁にはじける音も闇の中に消えていった。
天井には無数の星がまたたいている。おおいかぶさるような、宇宙の沈黙。アラスカの夜空ではなぜオリオン座がこんなに大きく見えるのか。左上がベテルギウス、右下はリゲル。北斗七星の杓(ひしゃく)を五倍に伸ばした場所には北極星……それは子どもの頃、反芻するように覚えた星の世界。だが一万数千年という時がたてば、今の北極星の位置は別の星にとってかわられるという。すべての生命は無窮(むきゅう)の彼方へ旅を続けている、そして、星さえも同じ場所にとどまってはいない。
手が届きそうな天上の輝きは、何万年前、何億年前の光が、やっと今たどり着いたという。無数の星々がそれぞれの光年を放つなら、夜空を見上げて星を仰ぐとは、気の遠くなるような宇宙の歴史を一瞬に眺めていること。が、言葉ではわかっても、その意味を本当に理解することはできず、私たちはただ何かにひれ伏すしかない。
(旅をする木―『ルース氷河』より抜粋)
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星野さんの言葉を追いながら、頭の中に写真でみたアラスカの景色が思い浮かべると、さーっと風に吹かれたような気持になります。そしていつか行ってみたいなぁと、アラスカの原野と星空、悠久の時に思いを馳せます。
旅、したくなりませんか? ぜひ気が向いたら読んでみてくださいね。
Sachiko(さちこ)
フリーランスのWEBディレクター/ライター
美容、コスメ、ファッション、健康食品など女性向けサイトの制作や運営に多数たずさわる。興味を持ったことは何でもトライして、浅く広く楽しむタイプ。好きなものはお酒、食べること全般、旅、音楽、アート、読書、映画、ゲーム、ジム通い。